Model Inside Story ほずみ

 

 

アイツとの出会いは高校に入る前の春休みだった。地元の群馬・伊勢崎でお祭りがあって、仲間のギャルやヤンキーが集まって、その日は夜まで大盛り上がり。みんなウラオモテのないヤツらで、すごく楽しかった。そんな中、女友達のひとりが入学した高校の2コ上の男の先輩を呼び出そうって言い出した。アタシも知ってる先輩だったし、久々に会えるから楽しみにしてたんだけど、先輩と一緒についてきたのがアイツだった。アイツはハリウッド映画に出てくるようなホリの深い白人で、正直、最初はその迫力に気おくれした。でも開口一番、「超かわいいじゃん!

オレ、バラね。よろしく」とチャラ男発言。アタシは「は?薔薇?なにそれ…」と言うと、一緒に来た先輩が「いや、そいつの名前が“バラ"っていうんだ。アメリカ人なんだよね」と紹介してくれた。バラのほうを見るとウインクしてきて、正直、第一印象は苦手なタイプ…。
友達からも小声で「バラはイケメンだけど、噂ではチャラって有名だから気を付けて」とクギを刺された。連絡先を交換しようって言われたけど、もちろん番号もアドレスも交換しなかった。それどころか、高校入ってからバラの存在自体、その時は忘れてたんだよね。

4月の終わり、遅刻気味で急いで改札を出たアタシに「あぁっ!ほずみだ!!」ってデカい声が飛んできた。バラだった…。急いでるアタシをよそに、バラはバイクを押しながら「ほずみってあの高校なんだろ?オレも同じなんだよ」って話しかけてきた。「いや、そんな目立つのに見たことないし」と言うと「ははは、だってオレ、高校辞めちゃったもん」。おいおい、マジか…と心の中で思っていたら、バラが急に立ち止まって「あ~あ、完全に散ってんな~」とポツリ。「は?なにが?」というと「サクラだよ。来年はほずみと一緒に見たいな」とか言い出す始末。う~ん、実にナンパなヤツだな…。それからアタシはバラを完全に無視し始めた。校門に入って行く時、「じゃあ、放課後な~」と背中で声がした。いや、ぶっちゃけもう会う気ないんですけど…。

放課後、学校を出るとそこには本当にバラがいた。アタシはさすがに面倒臭くなって「もう何なの?アタシになんか用なのッ!!」と少し語気を荒めて言った。するとバラは急にマジメな顔になり「オレ、お前のこと好きなんだけど」。青い瞳がアタシを見つめていた。

その頃、アタシには彼氏がいた。めっちゃイケメンのホストで、ファッション誌とかに読モで呼ばれて東京にも通ってた。みんなからもうらやましがられて正直、ハナが高かった時もある。でも彼には彼氏らしいことは何もしてもらえなかった。会おう言っても、いつも仕事仕事の一点張り。別れようと伝えたら「仕事で忙しいって言ってんだろ!つーかオマエ、他の男と遊んでたら、マジで地元いられなくすっからな」とピシャリ。そんな時、バラに偶然会った。元気ない姿を心配してくれたバラにアタシは彼のことについて相談を持ち掛けていた。バラは親身になって話を聞いてくれて、その後も何度か会った。いつもアタシをホメてくれて、楽しい話をしてくれる。ちょっとずつバラを優しいヤツだなって思い始めていて、そんな時に彼からメールがきた「オマエ今どこいんの?会いにこいよ」。アタシはバラといるほうが楽しいから、いつの間にか「いまいそがしー。明日連絡する」とだけ返すようになっていた。

6月のある日、バラといつものようにファミレスで語っていたら、入口のほうからこっちを見てくる強い視線を感じた。彼氏だった。その隣には怖そうなスーツを着た男がもうひとり。「ヤッバ…」そう思った途端、彼はテーブルの横まできて「テメェ…メールシカトしといて何イチャコラやってんだ?」。彼はバラにも「オマエ、○○連合のバラだよな?」と問いかける。バラは地元でも有名なチームのヤンキーで、彼氏はそのチームのアタマの幼馴染だった。彼が「後輩が先輩の女に手出して…」と言いかけた時、バラは「外、出ましょう」と切り出した。

夜の駐車場は人気もなくて、どこか怖かった。バラが「ここで話しましょう」と言った瞬間、「話すだ?調子こいてんじゃねぇぞ!」と彼は殴りかかった。そのままスーツの男も加わってバラは馬乗りで彼に殴られていた。アタシは震えながら「もうやめて!!」と叫ぶと、次の瞬間、殴っていたはずの彼が後ろに吹き飛ぶ。顔を殴られ、目は白目をむいてる。何が起こったのかわからない状況の中、バラは「人がガマンしてたらいい気になりやがって…」とつぶやき、スーツの男を捕まえると何発も蹴りを入れて失神させてしまった。バラは「あ~ぁ、やっちまった」と言うと、電話を掛け出し、迎えにきた友人の車に倒れた2人をつんで「わり、ほずみ。ちょっと2、3時間ちょうだい。ファミレスで待ってて」というと行ってしまった。3時間後、ファミレスに戻ってきたバラは顔をボコボコに腫らし「先輩ボコッたケジメ。チームの先輩にヤキいれられてきた」と笑いながら言った。バイクで家まで送るというバラと店を後にしようとした時、レジの前にいた彼が私に何かを差し出した。売店で売っているおもちゃの指輪だ。「ほ
ずみ、出会った時からマジで惚れてんだ、オレと付き合ってくださいッ!!

いつか本物のダイヤも必ずプレゼントするから」。アタシはどんな高価なプレゼントよりも嬉しくて、涙を流した。そしてその指輪を受け取ったバラと付き合い始めて、一番楽しかったのは暴走族の集会で、いつも彼は一番目立ってバイクで走ってた。特攻服には「ほずみ命」と書かれていて「バカみたい」と言ったけど、内心すごく嬉しかった。それからバラは新しいチームを作り、私は彼のバイクのタンデムシートに乗ってネオンが光る夜の街を疾走する。時には警察に追われることもあったけど、バラの背中にしがみついていたら安心した。

夏休みも終わりに近づいた時、アタシはバラと同棲生活を送るようになっていた。両親は反対したけど、彼はスーツを着て、親に挨拶に来たことで両親も渋々納得してくれた。新たな生活は全てが新鮮で楽しかった。時にはケンカしてバラを怒らせたりもしたけど、それはそれでいい思い出。そして数か月が経ったある日、転機が訪れた。アタシは妊娠した…。

バラに言ったらどんな反応をするか不安だった。この関係が終わるかもしれない、そう考えるだけで身体が震える。元気のないアタシを見た彼が、理由を問い詰めてきた。もう隠せないと思ったアタシは全てを打ち明ける。するとバラはヒマワリのような明るい笑顔で「マジかよ!オレとほずみの子供か、すげー!!」と大喜びだった。アタシは予想外の反応に驚きと安心が入り混じり、どんな顔をしていたのか覚えていない。ただこれから先、バラと子供と、どんな生活が待ち受けているのがドキドキしていたのは覚えている。アタシたちの未来はとても明るいものだと思っていた。

2月の朝、バラを仕事に送り出した後、インターホンが鳴った。こんな時間に人がくるなんてことは滅多にない。何か心の中でソワソワする、イヤな気配を感じていた。アタシは恐る恐る扉を開けると、無機質に「逮捕状」と書かれた紙を持った人たちがいた。目的はバラの身柄の拘束だった。暴走族で犯した罪の容疑が固まったのだ。

アタシはパニックになりバラに連絡を取った。でも全くつながらない。バラの友人に話を聞くと彼は警察から逃れ、身を潜めているという。数日後、バラから連絡が入った。アタシを連れて新たな地で生活をしたいと話してきた。アタシもその考えにうなずいていた。でも現実はそんなに甘いものではない。バラと地元を離れる朝、彼は警察に逮捕されてしまった。留置所の面会に訪れた時、彼は涙を流しながら言った「オレ、2年間少年院に入れられて、それから7年間、もう日本に来ることはできない。外国人だからアメリカに強制送還されるんだ」。何を言っているのか理解できなかった。ただただ絶望感だけが、アタシの身体を包み込む。それからアタシは狂ったように泣いて日々を過ごした。これは悪い夢なんじゃないかと思って家の二階の窓に足をかけたこともあった。そして母親に告げられる「アナタだけでは育てられない。堕ろしなさい…」と。16歳のアタシにはどうすることもできなかった。そして冷たい白いベッドの上で、アタシは最後の希望を手放した。

それからアタシは全てを振り払うかのように仕事に明け暮れた。1秒でも立ち止まれば、あの頃の闇に囚われてしまうから。キャバクラ、モデル…とにかくいろんな仕事をしてたくさんの人たちと出会った。その中でもファッションに関わる仕事が一番楽しかった。もともとキャバ嬢をしている時にドレスを自分なりに着こなしたり、アレンジするのは得意だったから。そんな経緯で、出会う人みんなに「いつか自分のブランドを持ちたい」と話していたら、キャバクラ嬢のドレスブランドに関わる人と知り合い、昨年、「HZ(ホズ)」を立ち上げることができた。

あれから何年も経ち、バラには会っていない。今思えばいろんな人に迷惑をかけたし、むちゃくちゃだって思えるところもたくさんあった。若かったって一言で片づけてしまうこともできるけど、アタシは16歳の時の経験を死ぬまで忘れることはない。そして「HZ」をあの時、手放してしまった希望の変わりに大事に育てていきたいと思っている。