Model Inside Story 桜井野の花

 

 

 小学校2年の時、美容室のオーナーをしていた父が亡くなった。3店舗目を構える前だったから、家には借金もたくさんあって、正直、父が亡くなってからの生活は厳しかった。母は父の店を守るために必死で従業員をまわして、兄も店を継ごうとがんばっていた。でもお店にきてくれていたお客さんは、みんな父の馴染みの客。キャバクラ嬢と同じで、そのキャストがいなくなるともうお店に人はこなくなってしまう。結局、お店は1年もしないうちに売りに出すことが決まってしまった。と言っても、3店舗目を開店するための借金があったから、お店を売ったところで手元には裕福どころか、普通に生活するためのお金すら残らなかった。頼りは母の稼ぎだけだった。

 半年も経つと生活はますます苦しくなって、食卓に白いご飯が出てくるのは希なことになっていた。だけど母はそんな中でも毎週1回、必ず白いご飯の塩おむすびを作ってくれて、私はそれを持って“ピクニックデー"と名前をつけ、食卓ではなく家の中の好きな場所でピクニック気分で食べるのを楽しんでいた。生活は苦しかったけど、それはそれで楽しんでいる自分もいたから辛いとは思っていなかった。でもある日、学校で友達に「あんたのお母さん、知らない男の人と歩いてたよ」とからかわれた。そんなことはないだろうと思っていたけど、しばらくして家に全く知らない男が来ていたりすることもあった。私の知らない男が私の大切な家に勝手に入られることがすごくイヤだったのを今でも覚えている。友達が言っていたことが本当だったことで学校にも行きづらくなったし、そのことで母を嫌いにもなった。その日、私はピクニックデーでなぜかお風呂の浴槽の中で塩おむすびを食べた。あの狭い空間がとても心地よかったし、誰もこないとわかっていたからかもしれない。その時、おむすびを噛みしめながらひとつだけ思ったことがある。「絶対に金持ちになってやる」って…。

 母が再婚し、私はなんとか大学に進学してバイトのほかにアフィリエイトで稼いだり、ちょっとお金に強欲な性格になっていた。その反面、夜は仲間とホストクラブで遊んだりして、お金の使い方は派手でもあった。そんな中、ひとりのホストを好きになった。私はどうしても彼を振り向かせたいからお金を使うけど、まぁ、普通の仕事じゃ追いつかないよね。そこで初めてキャバ嬢になって稼ぐようになった。彼とは恋人になって「一緒に住もう」って言ってくれた。私はその時、東京に住んではいなかったから、彼のために家を探し、書類に契約の判まで押して決意を固めた。そしていざ一緒に住もうと言った時、なぜか「別れよう」という言葉を切り出された。今まで手に入れたいものはそれなりに手に入れてきた私にとっては、考えられないほどの怒りが沸いた。ここまでさせておいて何を言ってるのか意味がわからない。怒り狂った私は、彼のホストとしての人気を落とすためにあらゆる手段を用いて仕返しをした。それからそのお店には出禁をくらって入れなくなり、また彼とも全く連絡が取れなくなった。人生初めての挫折。そこまでしても私の中での怒りは消えなかった。そこで子供だった時の言葉が頭をよぎる…「絶対、金持ちになってやる」、そして「見返してやる」が追加で加わった。

結局、私を動かすの金の力。桜井野の花は金なしには存在できない。いつその終わりがくるのかわからないけど、この金への執着は私の原動力となり、新たなステージへと導いてくれるのだと思う。だって、みんなもお金がない桜井野の花なんて見たくはないだろうしね。私は望まれる限り“桜井野の花"を演じ続けていこうと思う。

 

*** 本紙未収録STORY ***

 

 昔、親族が亡くなって遺産相続の話があがった。 まだ社会人でもなかったし、お金の話とかはよくわからなかったけど、仲が良かった親族同士で言い合いが始まっているのは肌で感じ取ることができた。 よくよく思い返せば、その時から私とお金って縁が深かったように思う。

 

 キャバクラを始めた頃のキャスト仲間も私が徐々に上に昇り詰めていくうちに、いつの間にか食事に行けば私がお会計、タクシーに乗れば同乗してお礼もなし。 お金って持てば持つほど、私が欲しいと思っていたものは、どんどん遠のいて行く気がする。
貧しかった小さい頃、お金持ちにさえなれば、みんなが優しくしてくれて、みんなが好きになってくれると思っていたけど、今その現実を突きつけられると痛いほどわかる。 みんなは私を好きなんじゃなくてお金を好きなんだって。 愛情や信用を仲間から決してもらわなかったわけじゃないけど、昔描いていたものには遠く及ばない。
実際、私に悪いところもある。そうしたお金だけの関係っていうものがいいとも思っていたし、変に見栄っ張りだから気前よく見せることで、まわりの人間もあわせていたんだと思う。
幸せになりたいからお金が欲しい、でもお金を手に入れると一番欲しいものが手に入らない。 このジレンマを抱えながら、また私はキャバクラという世界で生き続ける。いつか答えが見つかる日が来る、その日まで。